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◆ハムスターの顔に刺さった"ノミ"


ハムスターの顔に“刺さった”ノミ  (動物病院診療日記様 より)


画像を避けたい方のためと、私が内容を編集して別物になってしまってはいけないために
どうぶつ病院診療日記様より文章をお借りしたページです。

著作権はどうぶつ病院診療日記管理人ぽこさんに帰属します。
※無断転載や勝手な解釈による記事内容の変更は絶対にやめてください。


:ぽこ様の手記より:
ハムスターの顔に虫のようなものが刺さっている、という患者さんが来院です。
シラミかな?と思って、「動いてます?」 と聞くと、刺さったまま直立不動だとのこと。
まずは診察室に入ってもらって、モノを見てみることにしました。

どこにいるかと聞くと、顔の周りに付いているだそうです。
ハムスターの首の後ろをつかんで持ち上げ、顔を見てみました。

見たこともない虫(?)見たこともない光景に、 思わず声を出してしまいました。
プロとしては常に平常心で診察に臨まなければいけないところですが、今回は正直びっくりしました。

「これいつからあるんですか?」 と聞くと
「ペットショップで買ったときからなんかついてるなぁ、とは思ってたけどだんだん増えてきた」 とのことです。
ペットショップに相談したところ、 ほこりかなんかでしょうと言われたとのことです。
買ったのが半年以上前だそうなので、 このハムスターはずっと、この虫を顔につけながら生活してたわけですか・・。
頭は下側を向いていて、お腹だけが見えているらしく、 動き回る気配はありません。
お腹をピンセットでつついてみると、 足らしきものをばたばたと動かしています。
足が動いても宙をかいているだけで、あまり役に立ってはいなさそうですが・・。

ハムスターで時折見かける虫というとシラミが思いつきますが、シラミはもう少し小さいですし
わらわらと大量の真っ白な虫が動き回っていますので、 一目見れば分かります。
ノミはさらに俊敏に動きますし、 ダニでも動きは遅いですが、動くのが見えます。
ハムスターの顔に食いつき、動かない虫・・・ いくら考えてもさっぱり思いつきません。

りあえずは一匹引き抜いて顕微鏡で見てみることにしました。
ピンセットで虫をつかむと、 慎重に引っ張りました。
・・抜けません。 かなり、強力に食いついているようです。 なんなんだ、この虫は。

ハムスターも、つかまれて持ち上げられるのは平気でしたが、顔の虫を引っ張られるのは痛いらしく
前足でピンセットを払いのけようとしています。
でも、一匹抜いて顕微鏡で見てみないことには、 診断も付けようがありません。
ハムスター君には申し訳ありませんが、少し我慢してもらって、 何とか一匹、抜いてみることにしました。

さっきより力を込めて引っ張ると、 ブチッ、という感触と共に、虫が抜けてきました。
台の上に置くと立つこともできないようで、 まん丸いお腹をさらけ出しながら、足をばたつかせています。
プレパラートの上に乗ってもらい、顕微鏡で観察です。
うーん、ノミっぽい・・・でも、よく見かけるような、イヌやネコのノミとは明らかに違う感じです。
ダニにしても、何か違います。

教科書を見てみてもまるで分かりません。
最初見たときは、虫を全部引き抜こうかと思いましたが、 先ほどの感触からすると一匹抜くごとにかなり痛そうな雰囲気ですので
とりあえずサンプル分を何体か抜いて止めておくことにしました。

そして何の治療が効くかもよく分かりませんので、 とりあえずダニの薬を塗っておいて次回の来院までになんの虫か調べておくことにしました。
ところが、友達の獣医師の誰に聞いても、 そんな虫は知らないという返事です。
しまいには見間違いじゃないのとか、 疲れてたんじゃないのとかまで言われる始末です。

しょうがないので、獣医さん同士のコミュニティサイトの掲示板で尋ねてみることにしました。
返事が返ってくるかなと期待しながら待っていると、 その夜のうちに、とある大学の寄生虫学研究室の人から
それは、「ネズミフトノミ」じゃないの? という返事が返ってきました。

その人も実物は見たことがないようで、 サンプルを送ってくれないか、ということでした。
さっそくサンプルを送っておきました。 インターネットで情報の載っているサイト(英字)があるからと教えてもらって読むと
今回の症例とまさにどんぴしゃの内容でした。

なんでもネズミフトノミは、 未熟なときははい回り、宿主を捜しているけれども、 寄生する宿主を見つけると、頭を皮膚の中にめり込ませ
それ以後、死ぬまで直立した生活を送るということです。
成長すると運動能力はなくなるため、 抜かれてしまうと歩くこともできず、 栄養をとることもできず、餓死して死んでしまうようです。

治療法は、全て抜くか、それともノミの薬を付けるか、 ということのようです。
次の来院の時に、ノミの薬を付けてみることにしました。
そして初診から1週間後、 飼い主さんにハムスターを見せてもらうと、 ノミの数はある程度減ってはいましたが
全滅はしていないようです。

そこであらためてノミの薬を付けることにしました。
ネコ用の製剤で、ハムスターにも付けて害がないモノを選びましたが、 ネコ用の量をハムスターに使うわけにはいきませんので
微量注射器で製剤を吸って、それをハムスターに垂らすことにしました。
眼に入らないように、かつノミの近くにつくように、慎重に垂らします。
つけ終わると、あとはしばらく結果判定です。

さらに1週間ほどしてから飼い主さんに電話をしてみると、 きれいに無くなったということでした。
薬が効いてくれたようで、良かった良かったというところです。

でもゴールデンハムスターはイスラエルのあたりがもともとの出身地ですが、ネズミフトノミはアメリカ大陸のノミです。
よく考えてみると、 イスラエルのハムスターがアメリカでノミを拾ってきてそれから日本にやってきたということです。
日本で増えたりしないでくれよと願うばかりです。

 

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